2015年11月22日日曜日

わたしたちの意見陳述その3


京都府京都市中京区在住の西村敦子と申します。大飯・高浜差止仮処分訴訟に際して、申立人としての想いを申し上げます。

 

福島原発事故から5年経過した今でも事故の収束は見通せず、除染も困難、汚染水の漏えいさえも止められません。原発・除染作業員は被ばくし続け、いまだに10万人以上の福島の人々が避難生活を強いられたままです。高線量に阻まれて原子炉内部の調査が不可能なことから、いまだ事故の原因究明もできていません。安全とは言えないと規制委員会みずからが認めながら、なぜ原発の再稼働を行うのか、まったく理解ができません。稼働40年を超えた原発の再稼働さえも可能だとする国や関西電力の姿勢には恐怖すら感じます。新たな「安全神話」はやめてほしいと心から願っています。

 

当初、電力事業者は電力の安定供給のためには再稼働が不可欠だと強弁していましたが、すべての原発が止まっても安定的に供給できることが明白になると、事業者はついには企業存続のために再稼働が必要だと公言するようになりました。企業利益のために何十万、何百万人の住民が被ばくし、危機にさらされていいのでしょうか。

この間、再生可能エネルギーの増加や省エネルギーの進展には目を見張るものがあり、電力自由化などによって今後ますます供給源は安定、多様化します。そして関西電力は、原発が一基も動いていないにもかかわらず資源価格の下落で大幅な増益になったと報道されています。関電の主張に照らしてみても、もはや再稼働すべき理由はありません。それなのに、膨大な住民の被ばくや避難の可能性を前提にして再稼働を強行しようとするのは犯罪ではないでしょうか。信じられない思いです。

経済活動とは私たちの生活を豊かにするためのものであり、決して生活を破壊するものであってはならないと思います。事業者は、企業倫理に基づき、私たちの生活を破壊する危険性を前提にした、危険な商品・汚い商品の販売をやめるべきです。私たちの生活と健康、命がかかっています。ぜひとも、高浜原発の稼働を差し止めた仮処分決定を維持されるようお願いします。

 

 私は滋賀県大津市で生まれ、大学進学以来30年以上、ずっと京都府京都市に住み続けています。

私の両親をふくめて滋賀県民がその水質を一生懸命守ってきた「近畿の水がめ」であるびわ湖を筆頭に、水源が放射性物質で汚染されれば滋賀県民をはじめ京都、大阪、兵庫など近畿の1400万人以上の健康と生活が脅かされます。重大事故時の飲料水確保は全く見通しが立っていないのです。

私は京都に住んでおりますので、想定される京都の被害について特に申し上げたいと思います。

私の住む京都市中京区は、高浜・大飯両原発からおおよそ60㎞の距離にあります。これは福島第一原発から、強い放射能汚染にさらされた福島市中心部と同じ距離になります。今年の2月に福島県に行く機会があり、福島市にあるJR福島駅構内で、簡易線量計で空間線量を測ったところ、電車からホームに出たところで急激に上がり、待合室では約1μ㏜/h(ちなみに放射線管理区域は0.6μ㏜/h)を記録しました。事故から4年もたった福島市の中心部で、しかもJR構内でこのような線量にものぼる場所があるという事実に、私は大きな衝撃を受けました。

京都市の60㎞圏には、京都府庁・京都市役所や京都大学・京都府立医科大学・日本赤十字病院などの拠点医療機関のほかに、数々の世界遺産が集中しています。京都府等の行政機関が開示した複数の放射能汚染予測によると、高浜や大飯原発で過酷事故が起きれば、風向きによっては、私の家を含むこれらの地域が「屋内退避」となるほどの放射性ヨウ素で汚染されます。そうした事態になれば、世界に誇る文化観光都市・京都は、日々の生活はもとより観光・文化ならびに数多くの本山という信仰の拠り所等の基盤を失って、文字通り壊滅的な打撃を受けます。まさに国富の喪失です。関電という一企業の利益が優先されることなど、絶対にあってはなりません。

また汚染予測図では、北部一帯を高濃度に汚染したプルームは京都市以南の京都府南部にまで到達することが推測されています。高浜・大飯原発が再稼働されて大事故を起こせば、汚染被害は立地である福井県の自治体や原発から30㎞圏にとどまらないのです。京都府の人口約260万人のうち京都市は約145万人。京都市は原発周辺自治体住民の最大の避難受入先になっていますが、京都市民自体が避難しなければならない可能性がきわめて高いのです。しかも高浜34号機はプルサーマル炉であり、通常のウラン燃料の場合よりも健康被害が非常に高くなる恐れがあります。

京都府舞鶴市の一部は5キロ圏に入っており、舞鶴市民9,5千人・宮津市民2万人が全市避難となります。また30キロ圏の避難人口は福井県の2倍を大きく超えています。先述のように京都府庁や京都市役所は両原発からおよそ60kmの近さであるのに対して、福井県庁は70~80㎞です。こうして京都は最大の被害地元であるにもかかわらず、関西電力は京都府とは再稼働の同意権・拒否権をふくむ安全協定を結ぼうとせず、国も府の権限を認めようとしません。

京都府下では、30キロ圏内の安定ヨウ素剤備蓄は基本的に各市町1カ所のみです。事故後に配布をはじめることになっていて、これでは間に合わないという指摘に対して各自治体は口をつぐむばかりです。避難車両やバスの運転手不足も深刻です。自然災害での避難も大変なのに、さらに人災である原発事故で被ばくしながらどうやって逃げられるというのでしょうか。

大津市に住む私の親も介護が必要ですが、30㎞圏外は原発事故の際、屋内退避のみで避難計画は不要とされ、在宅・通所の要援護者が孤立する事実はかえりみられません。また安定ヨウ素剤の備蓄も不要とされています。福島原発事故で避難できずに、あるいは避難したために途上で亡くなっていった要援護者の方々のことを思うと、私の老親も含めて、援護が必要な方々が、避難所までたどりついたとしても体調を崩さずに生きていけるのか、本当に不安です。これほど多くの住民の被ばく・被災を前提とした経済活動=原発再稼働など、断じてあってはならないと考えます。

 

福島県の私の友人・知人は、様々な事情のために、高い線量の汚染に見舞われた福島市や、二本松市、郡山市ほか多くの地域に、放射能を不安に感じながら今も住み続けています。他方、京都には福島からも多くの方が避難してこられています。避難者の方々は、突然、住み慣れた家・地域から遠くへ避難・移住を強いられ、子どもをはじめとした被ばくによる健康被害や、転職、補償の打ち切りなど、生活の不安を日々感じておられます。新築したての住居に住めなくなり、避難先の家賃を支払いながら新築の住居のローンも返済しているという方もおられます。これほどの被害者を生み出しているのに、事故の刑事責任もいまだ問われることなく、被害者への補償・救済も不十分なままで原発再稼働とは、事故でさらに多くの人々が犠牲になっても仕方がないと考えているとしか思えません。

高浜・大飯原発をはじめ、福井にある原発が再稼働されれば、私たち原発近隣住民の命と生活は常に大変な危険にさらされることになります。司法の名誉と責任において、ぜひとも、私たちの命を守る決定をお願いいたします。

                            

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